わが国に女性の弁護士が誕生してから60年以上が経ち,女性弁護士も増えてきました。しかし,まだまだ圧倒的多数は男性弁護士であり,女性弁護士の比率は2割にも達していません。しかも,女性弁護士は大都市に集中しており,ほとんどの都道府県では1割以下にとどまっています。函館弁護士会のように女性弁護士がゼロの単位会もあります。つまり,女性弁護士の「過疎偏在問題」があるわけです。
「弁護士は男性も女性も同じだ」という意見もありますが,女性の相談者が女性弁護士を求めるニーズがあることは間違いないようです。女性弁護士が所長をつとめる公設事務所は,家事事件の相談比率が高く,遠方から女性弁護士に相談するために来所する相談者も少なくない,と聞いています。とくに離婚やDVの相談や,性犯罪の被害者の相談などは,女性弁護士の方が適切であると言えるでしょう。
では,どうして女性弁護士が都市に集中するのかと考えると,これまで,弁護士の主たるクライアントが企業であり,企業経営者に男性弁護士を求めるニーズがあったことが考えられます。他方,女性弁護士には家事事件の相談が多く,平均所得も男性弁護士より低かったとも言われています。ただ,それ以外で重要なのは,妊娠・出産・育児のため経営者になることに不安があったからでしょう。そのために多くの女性弁護士が共同経営者か勤務弁護士であり,単独経営者は少なかったようです。夫婦共同経営の事務所が多いことも,このことを示していると言えるでしょう。
妊娠・出産・育児は女性弁護士のみならず,自営業者である女性にとって避けがたい障害の一つですが(障害という表現に異論があり得ると思いますが,ここでは,このように表現することをご容赦ください。),そのために女性弁護士の地方への進出が妨げられ,地方の女性相談者が女性弁護士にアクセスすることができないとしたら,ゆゆしき問題です。女性弁護士個人の問題にとどまらず,司法アクセス及び男女共同参画という観点から日弁連が取り組むべき課題であると言えるでしょう。
私は,公設事務所や法テラスが,こうした課題を解決する鍵になると考えています。公設事務所や法テラスは任期付きですから,受任事件を他の弁護士に引き継ぐことができます。したがって,2年ないし3年公益的事件に取り組んで,その後一定期間は休業する,という働き方が可能になります。また,法テラスの場合には,育休や産休をとることも可能です。実際に,ひまわりや法テラスのスタッフに占める女性の割合は,2割から3割に達しており,地方の弁護士会に占める割合を大きく上回っています。
ただ,現実には,所長弁護士一人の事務所では休業することが難しい,という問題があります。しかし,本来,こうした問題は女性弁護士に限らず,怪我や病気の場合にも起こり得ることです。言い換えれば,公設事務所や法テラスの誕生により,新しい弁護士のスタイルが生まれている。こうした新しい弁護士のスタイルにあわせて,日弁連や法テラスが制度を整備しなければならない,という問題に直面しているのだろうと思います。
私は,日弁連や法テラスが一定数の「遊軍弁護士」を確保し,緊急事態が発生したときに派遣できる体制を整備すべきだと考えています。所長弁護士に緊急事態が発生した場合,まずは地元弁護士会がまず支援に当たるはずです。所長弁護士の相談に乗ったり,事件を引き取ったりという支援が考えられるでしょう。しかし,地元弁護士会で対応できない場合には,日弁連や法テラスが速やかに後任弁護士を派遣する必要があります。
もっとも,一定期間の休業すれば復帰できるため後任弁護士までは必要ない場合や,後任弁護士が確保できない場合もあります。こうした場合に,所長弁護士の業務をサポートするため,速やかに弁護士を派遣しようというわけです。これが「遊軍弁護士」のイメージです。
こうした制度があれば,所長弁護士が怪我や病気のため入院したり,女性弁護士が妊娠・出産のため休業することも可能になります。そのため,所長弁護士は安心して日々の業務に取り組めます。この制度はまだ構想段階ですが,こうした制度があって初めて,公設事務所制度が完結することになるのだろうと私は考えています。