国民から選ばれた審査員が、検察の不起訴処分が妥当かどうかを審査する検察審査会(検審)について、最高裁は21日、審査件数の実情に合わせ、全国の地裁・支部にある201の検審のうち50検審を減らす一方、東京、大阪など大都市圏の9地裁で計14検審を増やす統廃合案を公表した。
最高裁判所は、今月21日、検察審査会の統廃合案を公表しました。現在、検察審査会は、全国の地裁本庁・支部の合計201か所に設置されていますが、このうち過去20年間の平均申立件数が年1回に満たない50か所を統廃合する予定だそうです。来年5月の改正検察審査会法の施行にあわせて実施予定で、これから各地方裁判所から弁護士会に対し協議が持ちかけられるそうです(改正前の検察審査会法1条が設置数の下限を定めていたが、改正法により削除されたため。)。
具体的な統合対象庁は、以下のとおりです(括弧内は受入庁)。ほとんどが、いわゆる弁護士過疎地域,司法過疎地域といわれる地域です。
東京高裁
下田(沼津)、都留(甲府)、佐久(上田)、諏訪(松本)
大阪高裁
福知山(舞鶴)、柏原(伊丹)、洲本(神戸)、五條(葛城)、新宮(田辺)
名古屋高裁
熊野(津)、高山(岐阜)、武生(福井)、敦賀(福井)、輪島(七尾)、魚津(富山)
広島高裁
新見(岡山)、倉吉(鳥取)、出雲(松江)、浜田(松江)
福岡高裁
直方(飯塚)、田川(飯塚)、武雄(佐賀)、唐津(佐賀)、島原(長崎)、平戸(佐世保)、佐伯(大分)、竹田(大分)、日田(大分)、玉名(熊本)、山鹿(熊本)、人吉(熊本)、天草(熊本)、加治木(鹿児島)、川内(鹿児島)、日南(宮崎)
仙台高裁
石巻(仙台)、気仙沼(仙台)、遠野(盛岡)、宮古(盛岡)、横手(大曲)
札幌高裁
浦河(札幌)、江差(函館)、留萌(旭川)、稚内(旭川)、名寄(旭川)、網走(北見)
高松高裁
観音寺(丸亀)、阿南(徳島)、須崎(高知)、中村(高知)
最高裁判所は、統廃合の理由について、おおむね次のように説明しているようです。
申立人にとっては、申立ては郵送で行うのが通例であり、検察審査会に出頭する必要はないから、影響はほとんどない。他方、審査員にとっては、現状では申立件数が少ないので,実質的には参加の機会がない。それなのに,年4回は出頭してもらうことになっており,出頭の負担はある。そのため,苦情が出ることもある。統廃合すると、審査員に選ばれる確率が低くなるし、仮に選ばれた場合でも免除をゆるやかに認めれば、出頭の負担は軽くなる。したがって,統廃合は申立人にとっても,審査員に選ばれる人にとってもよいことである。
しかし、ことはそう単純ではないように思います。
そもそも検察審査会は、裁判員裁判と並ぶ、国民の司法参加のための制度です。平成16年の改正法により起訴議決が拘束力を持つようになり、検察審査会の権限が強化されました。これにより、検察審査会の性格は、大陪審(起訴陪審)に近づいたと評価できます。司法制度改革の一つの柱である国民の司法参加がせっかく拡充されようとしているのに、統廃合により地方の検察審査会をなくしてしまうのは、いかがなものでしょうか。
既に指摘されていることですが,司法制度改革により、いろいろと新しい制度が導入されましたが、それらは原則として本庁だけを対象としています。裁判員裁判も、労働審判も、原則として支部では実施されません(裁判員裁判が実施される支部は、全国10か所だけです。)。八王子や北九州のように大きな支部でも、地家裁委員会はありません。むしろ、債権執行や不動産執行事件が本庁に集約されたり、刑事重大事件が本庁に起訴されるなど、支部の機能はどんどん縮小しています。これでは、地方の住民にとっては、何のための司法制度改革だか分かりません(なお,裁判所の問題ではありませんが,弁護士会の支部にも法人格が認められない,という問題があります。)。
たしかに、審査員に選任された人にとっては、平日の昼間に裁判所に呼び出されて、審査する事件がないというのでは、苦情が出るのも当然でしょう。しかし、それなら集まる回数を減らせばよいのではないでしょうか。年4回でなければならない理由はないのですから、申立件数にあわせて集まる回数を減らせばよいだけでしょう。更にいえば,時間帯をもっと参加しやすい時間帯に変更してはいかがでしょうか。たとえば,市役所の協議会や審査会でも,夕方以降に開催する例が増えています。
また、過去20年間で平均1件に満たないとありますが、申立件数を増やす努力はなされたのでしょうか。せっかく検察審査会の権限が強化され,国民の司法参加のための制度ができたのですから,もっと積極的に広報して利用してもらうためにどうすればよいか,と考えるのが筋ではないでしょか。日弁連の意見書でも,「制度自体を周知させるための取組みを継続的に行うべきであり、法教育の一項目として学校教育で取り上げたり、事業所や経営者団体などへの継続的な資料提供と宣伝・広報を行うべきである」と指摘しています。
日弁連・改正検察審査会法の施行に向けた意見書
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/060720_5.html
また、過去20年という期間に合理性はあるのでしょうか。今回、統廃合の対象になった地域のほとんどは、いわゆる弁護士過疎地域です。数年前までは弁護士が全くいなかった地域も含まれています。こうした地域では、弁護士がいないのですから、申立てが少なかったとしても当然でしょう。しかし、日弁連や法テラスが弁護士過疎偏在対策を推し進めた結果、ようやく弁護士が増えてきました。ここ数年に限ってみれば、申立件数が増えているかもしれません。今回の統廃合は、こうした弁護士過疎偏在対策に逆行する動きのように思えます。
もちろん、検察審査会を存続させると,職員の配置が必要になります。職員も公務員ですから、無駄なコストをかけることはできません。ですが、ほとんどの支部では、検察審査会の職員は裁判所の事務を手伝っているのが実態です。宮古支部の場合も、12人のうち2人は検察審査会の職員でしたが、じっさいには支部の仕事を手伝っていました。もちろん、本来のあり方からすれば、事務量が多いのであれば職員を増やせばよいのですが、なかなか職員が増えないので検察審査会の職員で補填しているのが実情であろうと思います。こうした観点からすると、今回の統廃合は実質的には支部の人員削減にほかなりません。
弁護士の中でも、今回の統廃合について問題意識を持っている人は多くありません。支部に検察審査会があることすら知らない人もいるでしょうし、あってもなくても同じと思っている人もいるでしょう。しかし、考えてみてください。何のための国民の司法参加の制度なのでしょう。何のために裁判員裁判制度を導入し、検察審査会の権限を強化したのでしょう。それは、国民の考え方や価値観を司法に反映させるためです。国民自身が主権者として、この国のあり方に関わるためです。裁判員や審判員に選ばれても免除をゆるやかに認めれば足りる、ということにはなりません。
もちろん、こうした事情を考慮しても、最終的に検察審査会の数が多すぎると判断されることはあり得るでしょう。裁判員裁判にしても、検察審査会にしても、すべての支部で実施することはできません。できる限り多くの裁判所で実施することの意義と、そのために必要なコストを比べながら、決めていくことにならざるを得ないのだろうと思います。私も絶対反対というつもりはありません。
しかし、その場合でも、まず統廃合ありきの発想で進めるのではなく、どうすればコストをかけずに地方の住民の司法アクセスを向上させることができるか、司法に参加する機会を保障することができるか、を考えるべきでしょう。どうしてこれまで申立件数が少なかったのか,どうすればもっと利用しやすくなるのか。そうした問題についても,地方の住民の意見を聴くべきでしょう。そのためには、裁判所も、地方自治体や弁護士会、司法書士会の意見を聞く機会を設けるべきだと思います(これから協議を開始するということですから、じっさい意見を聞く予定なのでしょう。)。この問題に限らず,地域の司法のあり方については,法曹三者と地方の住民がともに考えていくことが求められているのではないでしょうか。
読売新聞の記事
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080121-OYT1T00642.htm?from=main1
北海道新聞の記事
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/71755.html