佐渡島に暮らす認知症の高齢夫婦の自宅が来年初め、大手信販会社により強制競売にかかる見通しだ。支払いが滞ったためとみられるが、その支払いは、県が業
務改善指示をした布団販売会社が結んだ契約だった。夫は9日、信販会社に対し、強制競売の中止と、すでに支払った金の返還や慰謝料の支払いを求め、新潟地
裁佐渡支部に提訴した。認知症が悪化した夫の代理人として、日本司法支援センター「法テラス」が動いた。
(朝日新聞)
佐渡に住んでいる高齢者夫妻が,布団打ち直しのクレジット代金を支払えないために自宅を競売にかけられたというニュースです。朝日新聞の記事によると,布団の販売会社は,昨年行政処分を受けたため,現在は事業を行っていない。クレジット会社は,わずか31万5000円の代金の支払いのために,自宅まで差し押さえて強制競売を申し立てている。契約書は名前は妻の筆跡で,あとは他人が書いている,年収や家族構成は空欄だった--ということです。
地方の公設事務所や法テラスには,こうした訪問販売の相談がたくさん寄せられています。布団や着物,健康食品,床下換気扇が代表的ですが,珍しいものになると太陽光発電パネルなんてのもあります。ほとんどの場合,高齢者が断り切れずにクレジットの契約書に判子を押して,必要もない商品を,法外な金額で買わされています。親族やヘルパーが自宅を訪問して,はじめて被害が発覚します。「次々販売」と言われるように,複数のクレジット契約を組まれているケースも多いです。
私が経験したものでは,合計2000万円以上のクレジット契約を10数本組まされているケースがありました。なお,商品は着物でしたが,すべて未開封で部屋の隅に積み上げられていました。このような問題が生じるのは,クレジット会社がほとんど審査をせずにクレジット契約を通してしまうからです。過去に支払いが遅れたことがなければ,他社の債務額などは全く審査しないのがクレジット会社の実情です。
こうした相談は,まず都道府県や市町村の消費生活相談員に持ち込まれます。そして,消費生活相談員があっせんし,販売会社が赤伝処理に応じればクレジット契約は解約できます。しかし,この事件のように販売会社が廃業しているときには,解約に応じないことが多いです。そのため,弁護士が代理人として信販会社との交渉,訴訟にあたる必要があります。
これまでにも,消費生活相談員から依頼を受けて,交渉,訴訟することがありました。しかし,この夫妻のように収入がほとんどなく,代金額も少額である場合には,弁護士が受任を躊躇していたのも事実でしょう。クレジットの解約交渉は手間がかかわるわりに,報酬が少ないからです。その意味で,こうした訪問販売などの消費者被害は,公設事務所や法テラスが取り組むべき事件である,ということができます。
加えて,公設事務所や法テラスの場合には,行政機関との連携が取りやすいという利点があります。この夫妻も市消費生活センターが相談を受けて法テラス佐渡に紹介し,法テラス佐渡が地域包括支援センターと連絡を取り合って自宅を訪問した,ということのようです。弁護士が行政機関と連携して,被害救済にあたるモデルケースと言えると思います。
近年,事前規制型の社会から,事後監視救済の社会へと転換するというスローガンのもと,どんどん規制が緩和されています。そのため,こうした違法な販売会社を取り締まることが難しくなっています。この販売会社も県から行政処分を受けていますが,そのときにはすでに多数の被害者が生じていたと思われます。そうした多数の被害者は,いったいどこに相談したのでしょうか。そして,クレジット代金は返してもらえたのでしょうか。
現実には,弁護士に相談したり,訴訟を起こしたりするには,多くの困難があります。「社会的排除」の概念が示しているように,多くの被害者は司法制度にアクセスすることが困難な状況に置かれているのです。そうした困難を乗り越えられた(たまたま熱意ある相談員や弁護士に巡り会えた)幸運な一部の人だけが救済されている,というのが現在の実情でしょう。
そのためには,まず規制のあり方を改善しなければなりません。具体的には,悪質な販売会社の契約についてクレジット会社に責任を負わせるなど,特定商取引法の改正が求められることになるでしょう。しかし,そうした改正がなされるまでは,個別救済によらざるを得ません。そうした個別救済を実効的にするためには,弁護士と行政機関とのネットワークが重要になってくると思います。その際に,公設事務所や法テラスが果たすべき役割は大きいと言うべきでしょう。この佐渡の事例は,そうしたネットワークのひとつのモデルになり得ると思います。
朝日新聞の記事
http://mytown.asahi.com/niigata/news.php?k_id=16000000711100005