東北の地裁が、不動産競売など「民事執行手続き」業務の取り扱いを支部から本庁に集約させている。裁判所は「専門的で迅速な事務処理が可能になる」とサービス向上を強調するが、司法過疎対策に取り組む弁護士会からは「過疎地域の切り捨てにつながる」との声も出ている。
河北新報は,東北地方の地方裁判所で,民事執行事件の本庁集約が進んでいることを報じています。執行事件の本庁集約が報道されるのはおそらく初めてで,非常に価値がある記事だと思います。
民事執行事件の本庁集約は,約2年前から全国各地の地方裁判所で問題提起され,弁護士会に意見照会がなされていますが,対応は弁護士会によってさまざまであり,本庁集約が進んでいる裁判所とそうでない裁判所があります。また,民事執行事件以外にも刑事合議事件や破産事件などを本庁に集約している裁判所もあり,「地方裁判所支部の機能縮小」が大きな問題となっています。昨年の第2回全国支部問題シンポジウムでは,この点がテーマの一つになりました。
最高裁判所の説明によると,「執行事件は当事者の出頭が必ずしも必要的ではなく,不動産競売の売却率を向上させるために,本庁に集約させている支部もある」ということです。最高裁判所は,不動産競売の売却立を向上させるために,BITシステム(物件明細書等インターネット提供システム,Broadcast Information of Tri-set System)を導入しています。これは,インターネットを利用して,いわゆる3点セット等の情報を提供するものです。最高裁判所によると,BITシステムを利用することにより売却率が向上するし,地方裁判所支部にも3点セットの写しを備え付けているので,不都合は生じない,ということです。
たしかに,インターネットを利用して売却率を高める工夫は必要なことであり,そのための業務の合理化・効率化にはやむを得ない面があることは否定しません。しかし,このシステムは買受人の利便性を高めるためのものであり,申立人や債務者,所有者にとっては必ずしも利便性が高まることにはなりません。支部管内に居住する債権者が競売を申し立てようとするときや,債務者,所有者が競売に対して不服申立を行うときには,地方裁判所の本庁に行かなければならない,という負担が増えることになります(もちろん,高く売却できれば,債務者にとっても利益になる場合があることは否定しません)。
また,不動産執行以外にも,債権執行や動産執行まで集約されてしまうと,たとえば,婚姻費用や養育費の差押えを申し立てる場合にまで,地方裁判所本庁に行かなければなりません。もちろん,郵便で申し立てることは可能ですが,それができるのは企業や,弁護士が代理人に選任されている場合だけでしょう。ほとんどの市民は窓口で説明を受けなければ申立て自体ができないように思います。たとえば,住民票や戸籍謄本も郵便で取り寄せることはできますが,ほとんどの人は市役所の窓口で取り寄せているのではないでしょうか。
このように考えると,民事執行事件の本庁集約の背景には,利用者の利便性を高め,売却率を向上させようという合理化・効率化の発想があり,そこで想定されている利用者とは主として企業である,ということが言えるように思います。たしかに,不動産を買い受けようとする企業や,債権を回収するために競売を申し立てる企業にとっては,利便性が高まることは間違いないでしょう。しかし,養育費を支払ってもらえないために元夫の給与の差押えを申し立てる女性や,認知症のため悪質商法の被害に遭い,支払督促が確定してしまい自宅の競売を申し立てられてしまった高齢者にとっては,負担が増大することもまた間違いないのです。
更に言えば,BITシステムで売却率が向上するのは,地方都市の不動産の中でも流通性の高い不動産であり,多くは商店街やバイパス沿いの空き店舗,住宅地の一戸建てではないでしょうか。そうした物件を都市部のリフォーム会社等が落札して,リフォーム後にパチンコ屋等に転売しているのです。そのため,商店街の中にパチンコ屋がどんどん進出して,商店街の雰囲気が変わってしまった,という声も聞かれています。 他方で,農地など流通性が低く,市場価値の低い物件は,BITシステムを利用しても売却率が向上するとは思えません。こうした物件は,支部で競売を実施し,地元の農家に落札してもらう方が売却率の向上が望めるのではないでしょうか(もちろん,そのためには裁判所をもっと市民に身近で,利用しやすいものに変えていく工夫があわせて必要になるでしょう)。
つまり,ここでは,BITシステムの導入によって,資産(不動産)の流動性が向上することにより,資産の外部への流出と,それによる農村部の荒廃が問題になっているのではないでしょうか(同じように,農村部では人材の外部への流出もまた大きな問題となっています)。そうであるならば,行き着くところは自由主義経済そのもの(また,それが不可避的にもたらす弊害)の当否であり,不動産の譲渡・貸借や建造物の建築についての公的な規制をどこまで緩和するか(農地法や建築基準法,都市計画法はその規制の一つです),という問題もあわせて考えておく必要がありそうです。
河北新報の記事
http://www.kahoku.co.jp/news/2008/06/20080606t73025.htm